一人ひとりが例外 基礎を重視し、技術を磨き続ける経営
林 弘之 氏

医療法人社団昴会
南青山林歯科クリニック
代表・歯学博士
林 弘之 氏(港支部)
【会社概要】
住 所 東京都港区南青山2-24-10 ヒロビル3F
設 立 1986年
従業員 8名
事業内容 歯科医療、保存歯科治療(歯周病、歯根部の病巣、接着修復等)および審美歯科治療
https://www.change-your-smile.com/
赤坂見附から宮益坂上までの青山通りは、季節を問わず、すっとした空気感が心地よい。外苑前の南青山3丁目交差点にはかつてファッションビルのはしりと言われた青山ベルコモンズがあったが、現在は青山グランドホテルとなり、懐かしさを含んだ外観でいまの外苑前に色を添えている。
39年前、雪舞いおちる外苑前。イチョウ並木を歩きながら林弘之氏は南青山林歯科クリニックの創業地を定めた。林氏の出身は山口県柳井市。父君は化学の教師であったこともあり、林氏は工作が好きであったという。「なにせ田舎でしたからね。ロケットを作って飛ばしたりもしました。都会でやったら怒られますね」といたずらっぽく笑う。またスポーツ青年でもあり、中学バスケットボールでは県大会にも出場。加えて柳井市は瀬戸内海に面しているゆえであろうか、林氏はヨットで波と一になるよろこびや、水深40mの静ひつな世界(国家資格潜水士を保有)も目を輝かせて語る。「登山をしたり、スポーツをしたり、身体を動かすことはたのしいですね。なかでもスキーは全身を使う生涯スポーツ。シーズン外でも散歩の工夫でトレーニングができ、そんな中でひょこっと日々のヒントも出てくるんですよ」と嬉しそう。ご自身の治療も現時点のアート(技術)に自負を持たれているという。歯の嚙み合わせは50ミクロンの世界。医師も身心のバランスを保つ重要性が伝わってくる。
林氏が創業時に念頭に置いたことは、技術で患者に寄り添うことであった。「高校時代の途中まで、進路を応用化学に置いていました。しかし、おばが歯科医をしており、その世界観というかヒントをもらい、高校3年生で進路を歯科に変更したのです。こうやってずっと身を置かせていただくと、やはり深いですね」と林氏。そして東京医科歯科大学にて歯学博士号を取得することとなる。「当時、総山孝雄先生には本当にお世話になりました。また先駆者、指導者のあり方を学ばせていただきました」と振り返る。実は取材冒頭、林氏は治療にあたり、歯の根っこを温存する基礎治療の大切さを語ってくださった。また、湿度を伴う口内の生体接着(歯の根っことかぶせる義歯)では日本の技術が進んでいるという。
そして林氏は34歳で長崎大学歯学部の助教授を務めることとなった。なお、中小企業家同友会との出会いも長崎である。当時、長崎同友会の会員が長崎大学病院に入院をしており、それより様々な話をすることになった。そして林氏が東京での開業を進める中、長崎同友会会員から当地事務局を通して東京同友会事務局が氏のもとを訪れたという。
「港支部では例会への参加のほか、支部ニュースで歯のコラムを担当しました。その他、支部をまたいで登山やスキーでいろんな人とのご縁をいただきました」と林氏。中でも、同友会の魅力はひろく“文化”を大切にする点にあるという。「会社の成長はもちろん大事なテーマですが、文化という根っこが各会員にあるがゆえによい意味で輪が広がっていくのだと思います」とは氏が重視する歯の基礎治療にも通ずることろではないか。
「ひととのつながりが大切。ひとは財産です」とクリニック内を彩るステンドグラスを眺めながら語る林氏。医療法人名は命名にあたり思案を巡らせたが、知り合いの画家と話すうちに“昴”と冠することを閃いた。
そして、ご令孫のお名前の由来ともなっているのだ。現在、クリニックはご子息と運営にあたっている。「息子とは専門の分野が異なるので互いを活かしあい、患者に寄り添っています」と柔らかい声が響く。「日々、治療にあたる際には患者さんには治療方針をペンで図に描いて共有するようにしています。みなさま、ひとりずつが例外なのです」と林氏。「真面目に自らの技術を磨いていくこと、最先端の技術をフォローすること。それしかないのです。ただ、真面目にやると儲からないですけどね」と冗談を挟み、「それゆえ、外してはいけないポイント、つまり基礎治療と患者さん自身による日々のメンテナンスが大事。これが先へ先へとつながっていきます」と語る。
先の技術、先の審美へとつなげていくために根底を重視する林氏。クリニックは3回外苑で移転をしており、2ヵ所目を移転する際には立ち退き交渉を伴ったそうだ。「露頭に迷うかと思いました。専門家含め相談先はありましたが、やはり自分で決断しました。たとえ好ましくない状況だったとしても、その中から次の糧になるものをすくい出していく。流されないことが肝要。それらを経て、自らを見つめ直し、相手のことを真に考えられるようになるのではないでしょうか」。そう、言葉をすっと寄せた。