東京都カスタマー・ハラスメント防止条例と経営者の対応(2025年4月)
Q
東京都のカスタマー・ハラスメント防止条例が2025年4月1日から施行されると聞きましたが、私たち経営者はどういった点に気を付ければいいのでしょうか?
A
- はじめに
東京都では、2025 年4 月1 日から、カスタマー・ハラスメント防止条例(「カスハラ防止条例」)が施行されます。これは、全国初の試みで、業種を問わず、顧客からのハラスメント行為を防止し、従業員の就業環境を守ることを目的としています。経営者としては、この条例への適切な対応が求められます。 - カスハラとは
カスタマー・ハラスメント(「カスハラ」)とは、顧客等からのクレームや言動のうち、社会通念上不相当な要求や行為を指します。具体的には、暴言、過剰な要求、長時間の拘束、SNS での誹謗中傷などが該当します。これらは従業員の精神的・身体的負担を増大させ、職場全体の士気や業務効率にも悪影
響を及ぼします。 - カスハラ防止条例の背景
近年、カスハラは深刻な社会問題となっており、サービス業従事者の約47% が過去2 年間に経験したとの調査結果があります。特に、接客業や医療機関では、顧客からの過剰なクレームや暴言が日常化し、従業員の離職要因にもなっています。こうした状況を受け、東京都は、2023 年に「カスタマーハラスメント防止対策に関する検討部会」を設置し、2024 年10 月、カスハラ防止条例が都議会で可決されました。 - カスハラ防止条例の主な内容
カスハラ防止条例の主な内容は、次のとおりです。
①カスハラの定義:顧客等からの著しい迷惑行為をカスハラと定義
②カスハラの禁止:すべての人に対し、カスハラ行為をしないよう求める
③事業者の責務:カスハラ防止に向けた措置を講じる義務
④従業員への配慮:就業環境が害されないよう適切な対応を求める
⑤相談・通報体制の整備:事業者は、従業員が被害を受けた際の相談窓口を設置 - 経営者が取るべき対応
経営者がカスハラ防止に向けて取るべき対応は、次のとおりです。
①社内規程の整備:カスハラ防止方針を明確化し、就業規則等に反映②従業員教育:カスハラの具体例や対処法を周知し、研修を実施
③相談窓口の設置:従業員が安心して相談できる体制の構築
④再発防止策の実施:発生時の原因分析と対策の策定
⑤顧客への周知:防止の取組みを顧客にも伝え、協力を促す
⑥他企業との連携:業界団体などと協力し、より効果的な対策を講じることも有効 - 対応を怠った場合のリスク
カスハラ防止を怠ると、従業員の離職やメンタル不調、企業のレピュテーション低下のリスクがあります。また、安全配慮義務違反として、従業員から法的責任を問われるおそれもあります。さらに、SNS 等で「対応が悪い企業」として拡散されることで、企業のレピュテーションの低下につながるおそれもあります。 - 今後の展望
東京都のカスハラ防止条例は、他自治体や国レベルの法整備にも影響を与える可能性があります。
企業にとっては、条例施行に備えて、積極的な対策を講じ、持続可能な職場環境の実現を目指すことが重要であり、経営者には、従業員が安心して働ける環境を整え、企業価値の向上にもつなげることが求められているといえるでしょう。
中山泰章(中央区支部)
日本橋法律特許事務所
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