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経営者Q&A

中小企業M&Aに備える労務管理(2024年11月)

Q

社員20 名ほどの会社を経営しています。
後継者がいないためM&A を検討していますが、中小企業でもできるでしょうか?
また、労務管理面での注意点はありますか?

A

事業は順調なのに後継者がいない、という中小企業が増えています。中小企業庁によると、経営者の高齢化(〜70 代)と後継者の不在が廃業の大きな要因になっているとのことです。社員の雇用を維持するためにも中小企業がM&A を事業承継の選択肢に入れることを推奨しています。
M&A で買い手側の会社が労務DD(デューデリジェンス)を行う場合に課題となる未払残業代と社会保険の未加入問題について説明します。

【未払残業代】
労基法では、1 日8 時間、週40 時間を超えて社員を働かせた場合、割増賃金(残業代)を支払うことになっています。
ですが、中小企業では適切に労働時間管理や給料計算が行われていないことも多く、未払残業代が蓄積していることがあります。

■未払残業代が発生する原因
・労働時間管理をしていない
・毎月定額の残業代を支払っている(いわゆる固定残業代)が、固定残業時間を超える残業があっても追加の残業代を支払っていない
・残業時間は30分単位で切り捨てているなど労基法の未払賃金(残業代)請求の時効は当面の間3年間となっています。この期間内であれば、社員から過去の残業代を請求される可能性があります。

【社会保険の未加入】
社会保険は要件を満たしていれば正社員、パートに関係なく加入させる必要があります。が、保険料が高いことなどを理由に、加入するべき社員を加入させていないことがあ
ります。
・試用期間中の社員を加入させていない
・要件を満たしているパートタイマーを加入させていない(扶養内で働きたいなど)
・給料を低く見積もって届け出ている
・営業などのインセンティブを外注費にして、届出していない
現在、年金事務所では数年ごとに会社に定期調査を行っています。
そこで社会保険に加入させていなかったり、低い給料で届け出をしていたことが分かった場合、最大過去2 年前まで遡って加入させ、保険料を徴収される可能性があります。
また、社員には、私傷病で働けなくなったときの傷病手当金が受給できない、又は受給額が低くなる、将来受け取る年金額が低くなる、という不利益が及びます。
以上のように未払残業代や社会保険未加入の社員がいることが分かった場合、買い手側の会社ではM&A を取りやめたり、買い取り金額から将来の損害賠償請求予想額分を引き
下げたりする可能性があります。
上記に挙げた問題を解消するには数年かかります。M&A をしようと決めてからでは間に合いません。日々の適切な管理・運用の積み重ねが大切です。

渡辺 明子(墨田支部)
Anna人事労務サポート
特定社会保険労務士
TEL : 03-6261-6334
HP : https://anna-sr.com/
MAIL : info@anna-sr.com

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