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経営者Q&A

中途採用者の解雇(2006年4月)

Q

1年前にソフトの新規部門を立ち上げたくて40歳の中堅技術者を募集し採用したのですが、全く期待した能力がないので解雇を申し渡したところ、ユニオンに駆け込まれました。優秀な大学を出ているし人柄も誠実なのにソフト開発の仕事は全く経験がなかったのです。試用期間中は「初体験ですから」と言うので当社の仕事については当然そうだろうと思っていたら、ソフト開発自体が初体験だったのです。今でも若い者をサポートにつけねば仕事にならず、とても新規部門のリーダーになれる力量はないばかりか、ミスが多くてしかも反省もしないので、2人分の仕事がつぶれてしまいます。これでは会社が持ちません。それでも不当解雇になるのでしょうか。

A

採用時の待遇は何か普通よりも優遇したものがありますか。

Q

いえ、本人が「それでよい」と言うものですから一般採用の場合と同じにしています。

A

最近、即戦力として中途採用した社員の能力不足を理由とする解雇について裁判所などに訴えられる事件が増えています。
解雇については平成15年に労基法が改正され、それまで判例で確立していた解雇権乱用の法理が条文化されました。(18条の2)
「客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当だと認められない解雇は解雇権の乱用として無効とする。」というものです。
この基準に照らして中途採用者の能力不足の問題を考えてみると大変難しい問題がたくさん含まれています。
まず能力不足ということ自体が主観的な評価に関することで、つまり「当社の期待に合わない」ということですから、本人は当然不満になりますし、社会的にも客観的合理的基準などというものがありません。会社のほうで「中堅技術者としての客観的合理的な能力の水準」を明確化することが求められます。そして本人がその能力に到達していないことを証明しなければなりません。その上さらに、そのような能力水準に達していない者を解雇することが社会通念上相当と認められるかどうかについて判断されることとなるわけです。
ところで、この判断はいったい誰がどのようにするのかといえば、まさに裁判官が独自に判断するしかないわけです。
ご承知のとおり裁判官は中小企業で働いたこともなく、自ら人を採用した経験もありません。そのような裁判官が双方の言い分のみを聞いて単独で「社会通念上相当か否か」を判断し解雇有効か無効かの結論を出すのです。
即戦力とか中堅技術者としての「合理的要求水準」の判断にあたっては、客観的に外部からわかる事項、たとえば採用時の能力判定方法や採用条件、採用後のポスト、賃金の額などが重要な判断材料とされてきます。
本件のように一般採用と同じ採用条件だったというのであれば「能力不足による解雇」というのはきわめて厳しい判断をされることになるでしょう。しかも1年も雇用を継続してきたのですからさらに厳しくなります。
この件は裁判所に持ち出されるとかなり不利といわねばなりません。ユニオンとの間で、円満退職の扱いに切り換えてその退職条件についてねばり強く実情を説明しながら話し合われるほうが賢明だと思います。

原口紘一(三多摩支部)
原口法律事務所
TEL.03-3361-9633

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