骨抜き!? 中小企業会計基準(2006年9月)
中小企業向けの会計基準が出たそうですが。
中小企業庁、日本税理士会連合会(以下、日税連という)、日本公認会計士協会(以下、JICPAという)が各々の立場でまとめ、普及を図ってきた3つの報告書が統合され、平成17年8月に「中小企業の会計に関する指針」(以下、会計指針という)として公表されました。その後、新会社法において創設された会計参与制度の定着を期待して、会計指針が平成18年4月に改正され、併せて「会計参与の行動指針」が新たに公表されました。
制定の経緯を教えてください。
業際を巡って日税連とJICPAとが初めて手を結びました。すなわち会計参与制度の定着により税理士業務の拡充を図りたい日税連は、是が非でも指針を定着させたい。さりとて上場企業並みの厳しい指針を税理士会員に課すのはしんどい。他方JICPAとしても、指針のレベルを下げることで、監査の領域に日税連が踏み込む足がかりを阻止したい。そういう両者の思惑が合致した産物といえるでしょう。
中小企業は、そもそも税法の基準に従っています。それとどう違うのですか。
会計指針は、中小企業が計算書類の作成に当たり準拠することが望ましい会計処理や注記等を示すものとされています。ただ、中小企業に過重の負担とならないような配慮がなされ、簡便的な方法や一定の条件下で法人税法が定める処理が参照されています。
中小企業は従わなければならないのですか。
『中小企業は、本指針に拠り計算書類を作成することが推奨される。とりわけ、会計参与設置会社が計算書類を作成する際には、本指針に拠ることが適当である』とされています。よって、強制力は全くありません。従わなくても、特に罰則規定はありません。
であれば、どこもやりませんよね。
現行の制度の枠組みの中では、強制力がない以上指針の定着は先ず普及活動から始めなければなりませんから、時間がかかるでしょう。
しかしながら、融資との絡みで考えると、金融機関側からの要請次第で加速度的に定着するかもしれません。指針に従った計算書類の提出を要求されると会社も断れませんから。現実的には、そこが制度定着のひとつのポイントになるでしょう。
結論として必要ですか。
ルールは唯一(シングルスタンダード)であるべきとの主張からは「一般に公正妥当と認められる企業会計の基準」から乖離(かいり)し、内容の緩い「指針」は不要という意見もあるかもしれません。しかし、レベルはともかくとして、従来よるべき中小企業向けの会計基準が全くなかった点からすると、一歩前進という意味で、十分に評価されるのではないでしょうか。
加藤一志(杉並支部)
翼総合 公認会計士
http://www.kato-co.jp/
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