事業承継の核心は事業と経営の承継にある(2007年1月)
事業承継を円滑に進めていくにはどんな点に留意する必要がありますか。
まずは自社の事業の現状と見通しについてあらためて見直し、今後の進むべき方向を明確にすることです。信用金庫が行った事業承継に関する経営者アンケートによると、承継に際しての最大の懸念材料を「事業の将来性」と回答した企業の割合が最も高く71.8%でした。この問題を真正面から取り上げて後継者と共に考えていくことが求められます。具体的には自社の現状を冷静に把握することです。事業の「強み」と「弱み」、業界における自社のポジション、原価管理や店舗オペレーションといった業務の仕組み、借入金の状況等自社の財務体質等について徹底した見直しを行い現状における企業の価値を見つめ直すことから始まります。このような取り組みは、当然自社の将来の事業のあり方について具体的に詰めていくことになりますが、それは自社の経営ビジョンの策定に繋がります。こうした内容を中期経営計画として後継者と共にまとめ上げることが必要でしょう。
後継者には現在のところ親族を考えていますが、これ以外の後継者対策としてはどのようなことが考えられるでしょうか。
後継者対策としては事業を息子に引き継がせるという親族承継が一番望ましいと思います。これが難しく社内からという場合には金融機関借入に対する個人保証や担保提供問題、信用力、株式を買い取るための資金不足等の問題が起こることを念頭において対策を考えていかなければなりません。社内にもふさわしい者がいないとなると、その事業を引き取って事業を継続してくれる会社なり個人に託す方向があります。他の会社に託す道を一般的にはM&Aと呼び、最近は中小企業でも急速に増加しています。個人に託す道というのは、たまたま息子がまだ大学生で事業を切り盛りする力がないような状況にある場合、セットアッパー(中継ぎ経営者)を招き息子が一人前になるまでのリリーフを頼むことになります。このニーズは最近特に強くなってきています。
それから株式の問題も頭の痛い問題なのですが。
後継者が社長になった後の支配権をいかに確立するかを考えることです。新会社法は、中小企業のような株式の譲渡制限を定款で定めている会社には「株式の買い取り請求」ができるようにしました。また、旧商法下でも発行が可能であった無議決権株式の発行等さまざまな種類株式の発行について規制を撤廃しました。事業承継対策に新会社法を活用することが重要になります。これからの事業承継対策は、事業と経営の承継を中心に検討が進められることが求められていると思います。
渡辺正幸(豊島支部)
中小企業診断士・経営士
企業再建・承継コンサルタント
協同組合専任コンサルタント
TEL 04‐2949‐8931