年俸制なら残業代を払わなくてもいいの?(2007年12月)
当社は、給与体系を変更し、年俸制に変更する予定です。移行の計算にあたり、所定内給与の他に賞与や時間外手当を見込んでいますので、今後は各月の時間外手当は支払わなくてよいものでしょうか。
年俸制に移行する理由は、賞与や残業も一切合切含んだ給与として提示することにより、社員にこれまで以上に責任と意欲を持って仕事をして欲しいと願うからでしょう。ある面、細かいことは既に心得ている年配者や管理職、自分を高く売り込める営業マン等に適している給与体系と言えるでしょう。反面、一般社員にそのまま何も説明しないで適用すれば、「時間外手当はもらってない」と不満が出てくるのは当たり前です。その説明をした上での年俸制ということになります。
誤解されている点ですが、時間外勤務にかかる割増手当の支払い義務を定めた労基法第37条は、管理職や特殊勤務者等を適用除外(労基法第41条)しているだけであって、年俸制の社員を除外するとはどこにも書いておりません。したがって、法律上は、年俸制の社員だからという理由だけでは、時間外、休日等の割増手当の支払は適用除外されませんので注意が必要です。判例も年俸制であっても実際の時間外労働が予定割増賃金部分を超える場合には時間外手当の支払いを必要としています。「基本給に含まれる割増賃金部分が結果において法定の額を下回らない場合においては、これを同法に違反するとまでいうことはできないが、割増賃金部分が法定の額を下回っているか否かが具体的に後から計算によって確認できないような方法による賃金の支払方法は同法に違反するものとして無効」(大阪地裁平成14.5.17)と。
そこで、会社としては、一般社員の年俸制適用者に対しては既に残業代相当分を折込済みと説明します。ただ、これをより明確なものにするには、毎月の給与に時間外相当分が幾ら分、あるいは何時間分含まれているのかを明らかにすることが必要でしょう。ここまでくれば、おわかりのように、現行法では、一般社員に対し年俸制の適用はお奨めではありません。
石田 仁(豊島支部)
経営労務コンサルタント
ishida@ddk.or.jp
http://www.ddk.or.jp/
TEL 03-3980-8298