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経営者Q&A

多国間契約、訴訟問題となった場合の展開(2013年4月)

Q

国内の契約と違い多国間の契約は細部に渡り取り決めないといけないと云われているが、それでも訴訟問題となった場合、どのように展開するので
しょうか。

A

「誠実に話し合って決めましょう」「契約の書かれていないことは話し合いで決めましょう」という、いわゆる、信義誠実の原則は、英米法にはないという話をよく聞きます。これは、真実かというと、「イエス」でもあり「ノー」でもあるのです。国際契約を「信義誠実」の理念がないから、枝葉末節、全て細々と取り決めをしないといけないという解説は、ある意味正しくありません。
しかしながら、多国間契約は勢い「詳細に」「網羅的に」「枝葉末節にこだわった」契約書が作られるのも事実です。では、どうしてなのでしょうか?
「信義誠実の原則に基づいて」という条項を含む契約を巡って、日本で裁判になった場合を考えると、裁判は喧嘩や争いのいわば究極的な解決の場ですので、「まあまあ、お互い仲良く話し合いで決めましょうや」という精神状態が通用しなくなっているはずです。
喧嘩のもとを質すと、「契約書を取り交わす時にこう言った、こんな趣旨で結んだ契約だった」などの思い込みがあるのではないでしょうか?阿吽の呼吸で商売をしてきた日本人同士でも、信義誠実の看板だけでは解決できなくなっていると考えると、言葉も違う、文化も違う、多国間での契約に詳細な取り決めがどうしても必要になります。これは、喧嘩したときの「結果(outcome)」がどちらの側にも見えやすいようにという視点で「契約書は書くべき」という基本姿勢を、アメリカの弁護士は教え込まれてロースクールを出てきますので、考え得る「喧嘩の材料」をすべて網羅して、その喧嘩がどのように解決されるかというイメージを持って契約書をデザインして行きます。
アメリカでは「婚前契約」を結んで結婚するカップルが多くいます。二人とも貧乏ならあまり問題になりませんが、少なくとも片方が豊富な財産を持っているカップルが、「万が一」、まあ現実は「二組にひと組」ですが、離婚する場合に、どのように離別するか財産を分けるか、少なくとも結婚する時点で持っている財産に関しては決めておこうという趣旨で結ばれる契約です。これは、まさに、夫婦喧嘩をどのように解決するかをあらかじめイメージを持って決めておくという趣旨で結ばれる契約です。
ご質問の「国内の契約」を例えばアメリカ企業と結ぶと、契約締結時は言わば新婚ですので、間違いなく仲が良いわけです。国際結婚のカップルをご想像頂くと分かり易く、四六時中「ハグして、キスして」愛情表現が豊かで、「この上なく幸せです!」と公言してはばからない関係がそこにはあります。「信義誠実の原則」で良いじゃないか!と思うわけです。しかしながら、少しずつ意思の疎通が難しくなり、やがて喧嘩が始まると、どのように契約を終わらせ、どのような補償があるのか、契約終了を切り出せるのは誰で、どのようなタイミングであるべきか、何かしらの瑕疵が必要なのか、理由は問わないのか、現在の受注残はどうなるのか、現在の顧客を誰がどう引き継ぐのか、お互いに共有していた秘密情報の取り扱い、顧客リストを活用できるのか、清算をどうするかと、様々な問題をクリアしていかなければならないわけです。関係がこじれた状態のもと、これを決めていくのは大変です。そこで、あらかじめ決めようとするわけです。
(そう考えると、契約書はしっかりとしておこうと思っていただけるのではないかと思います。ご質問の中の「それでも訴訟問題となった場合」は、信義誠実を原則とする「国内の契約」を結んでいる場合を想定していると考えますと、アメリカ企業の発想は、「契約書に書いていないのだからやらない」に尽きます。簡単な3ページくらいの「最終条が信義誠実の原則」で結んでいる「国内の契約」をそのまま英訳した「国際契約書」で結ばれた国際ビジネス(結婚)は、別れられない(離婚できない)とは決して言いませんが、「書いていないことはやらない」「書面で制限されていない権利はこちらにある」「書いていないことはないものと同じ」という基本姿勢で対応してきます。もらえるものはすべて持って行かれると覚悟が必要です。こうすることを会社の上層部も、さらにその上の株主も、求めてくるのがアメリカ企業ということを是非ご理解ください。)
少なくともこうした悲惨な泥沼の「離婚劇」を防ぐには、離婚調停の場を、日本の裁判所か、国際仲裁機関に指定しておく工夫が有効です。準拠法を日本法に出来ればさらに良いでしょう。契約終了の方法を詳細に定め、それぞれ持ち寄ったノウハウや技術の所在、所有、ライセンスを明確にして、どう持ち帰るかを決め、顧客をどう引き継ぎ、、、と、結局どんどんとリストは長く、契約書は分厚くなりそうです。どうか、国際契約を結ぶ際には、契約書に正面から取り組んで頂きたいと思います。
(信義誠実という考え方は英米法にはないのでしょうか?決してそんなことはありません。ただし、信義誠実が向かう方向が少し違って居りまして、「話せば分かる!(なんか犬養毅首相の最期の言葉のようですが)」の方向に向かうのではなく、契約を「信義誠実」に実行するという方向にベクトルは向いています。従って、例えば、請求権があるものを2年も3年も放っておくと、請求権の消滅時効前であっても、請求権が侵されていることを知りながら2年も3年も放置したことを、とがめられて、権利の行使が止められるや、前言を翻して自分の有利なようにことを進めるなどの行為は、この「信義誠実の原則に基づいて契約を行う」という原則に照らして認められないという判断が裁判所から出る可能性が高くあります。)

奥山 英二(港支部)
Strategic Legal Solutions, Inc
米国公認会計士 NY州弁護士
TEL.080-1246-8863
E-mail : eokuyama@gmail.com

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