インフルエンザ感染を隠して出社する社員への制裁(2015年1月)
Q
昨年、インフルエンザが流行したときに、当社の従業員がインフルエンザに感染していたにもかかわらずそれを隠して出社し続けたため、それが原因で、同じ職場の同僚の多数がインフルエンザに感染して会社を休んでしまい、会社として困ってしまったことがあります。
今年はそのような事態を防ぐため、自分や家族がインフルエンザに感染した従業員には、出社を禁止し、それに違反した場合は懲戒処分をしようと思っています。このような対応で問題ないでしょうか。
A
会社としては、従業員の健康に配慮し安全衛生を保持する義務もありますので、インフルエンザのように周囲への感染力を有する病気に感染した従業員に対しては、他の従業員の健康に配慮して、出社を禁止したいと考えるのも理解できます。また、他の従業員がインフルエンザに感染して大量の欠勤者が出れば、事業遂行の上で大きな支障が出てしまいますので、なにより会社の損失を避けるためにも、当該社員の出社を禁止したいと考えるのももっともです。
では、インフルエンザの感染を隠して出社した従業員に対して、懲戒処分をすることができるのでしょうか。
懲戒処分を有効に行なうためには、①就業規則(または労働契約)に懲戒処分の種別・内容と懲戒事由が定められていること、そして、②従業員の行為が、その懲戒事由に該当することが必要となります。
就業規則等に「従業員は、労働安全衛生に関する法令及び本規則に定める事項を遵守するとともに、職場及び自らの安全衛生の保持に努め、会社の講ずる安全衛生に関する措置に積極的に協力しなければならない」、懲戒事由として「この規則に違反する行為があったとき」等の規定がある場合、インフルエンザに感染した従業員が感染を隠して出社し、他の従業員にインフルエンザを感染させる行為があれば、安全衛生保持義務に違反する行為として懲戒処分の対象となるといえます。
ただし、よくよく考えると、本当にその従業員が他の従業員にインフルエンザに感染させたのかがはっきりしません。感染源・感染経路の特定が困難で、上記②の要件を満たすかあいまいです。それにもかかわらず、その従業員が感染源だと断定して懲戒処分を行なえば無用のトラブルを招きかねません。懲戒処分には慎重であるべきでしょう。
今回のご相談のケースでは、会社の目的は懲戒処分をすることよりも、感染した従業員に欠勤・自宅休養してもらうことにありますので、懲戒処分を検討するより、むしろ、従業員から見て欠勤しやすい体制を整えることを検討することが有益だと思います。たとえば、欠勤中の業務の代替の体制の確保、欠勤中の賃金(休業手当)の保障(ここでは休業手当の支払義務の有無の議論は割愛します)によって、インフルエンザに感染した従業員が自発的に欠勤・自宅療養しやすくなる体制を整えて、職場での感染を予防することが望ましいと言えます。
田辺 敏晃(千代田支部)
川合晋太郎法律事務所
弁護士
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