会社側も申請できる 「紛争調整委員会のあっせん」制度(2016年5月)
Q
社員数人の工務店です。65歳定年制で、3月に古参の幹部社員Bが定年で退職したいと申し出がありました。当社は、「退職金を加算するから、もう少し働いてほしい」と持ちかけたところ、翌日になり、「過去の残業代をくれ」と言われました。退職は仕方がないとして、このまま、残業代の支払に応じていいものか、困っています。
A
貴社は、5 年以上前にタイムカードを採用しました。幹部であるB には、残業代替わりに役職手当を5 万円支給し、その上、遅刻、早退、欠勤しても、一切控除せず勤務したものと扱ってきたのですね。長年、一生懸命会社に尽くしてくれたB さんには何とか報いたい。だから、予想外の申し出に困惑しました。
円満に解決をするには、話し合いが一番です。B さんは職人で無口。今回は、ヒステリックな配偶者にたきつけられて「とれるものは、何でもとってやろう」の感情的な言動姿勢が見受けられます。「俺の退職金は1,000 万円もらって当たり前」、「相談にのってもらっている人がいる」等とエスカレートしています。このまま当事者として話し合うのは困難です。
考えられるのは、第三者に入ってもらい結論を得る方法でしょう。費用をかけて弁護士を代理人に立てることは、本意ではない。円満解決のため、「ある程度退職金に加算し、役職手当に不足する残業代を2 年分程度なら遡って支払ってもいい」と腹案があるのですから、解決の糸口はあると思います。
都道府県の労働局が担う「個別労働紛争解決制度」があります。費用は無料、相談できるのは社員だけでなく、会社側もできます。利用にあたり、はじめは出先機関である「総合労働相談コーナー」で事案の相談をします。電話でアポイントをとり、必ず相談に行って下さい。担当官を味方につけることが決め手だからです。相談で、解決しない場合は、より拘束力のある紛争調整委員会のあっせんを希望します。労働組合との紛争になっている場合は使えません。申請書の書き方は、担当官が丁寧に教えてくれます。あっせん申請すると、担当官からBさんに電話で打診があり、正式に参加の意思確認と期日を示した確認通知書が送付されます。拒否しなければテーブルについたことになりま
す。あっせんの期日までに時間がありますので、問題点が整理、確認され、お互い冷静になることができます。
弁護士や大学教授等のあっせん委員が入り、話し合いが行われます。当事者の同席はなく、別々にあっせん委員と話をする方法で一回しかありません。担当官が同席し、貴社のように既に、①退職金の功労加算、②役職手当を超える時間外の2 年遡及支払の提案がある場合は、あっせん案は双方の受諾を得やすいものです。なお、受け入れた和解案には民事上の効力が発生しますから、拘束力があり早期解決に役立ちます。ぜひ、ご検討下さい。
石田 仁(豊島支部)
協同組合 DDK
経営労務コンサルタント・社会保険労務士
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