性的少数者への理解(2021年5月)
性的少数者の権利が注目されていますが、会社経営にも影響がありますか。
1 はじめに
2020 年6 月1 日(中小企業は2022 年4月1 日)から、いわゆるパワハラ防止法が施行され、企業は防止措置を講じることが義務付けられました。この法律において、性的指向や性自認に関するハラスメントについても規定されています。そのため、性的少数者への理解は、経営者にとっても必要不可欠といえます。
本稿では、2 つの裁判例を基にイメージを膨らませてみたいと思います。
2 淀川交通事件
(大阪地裁令和2 年7 月20 日決定)
戸籍上の性別が男性で、自らを女性と認識するトランスジェンダーのタクシー運転手が、化粧をしていること等を理由としてタクシーに乗務させないとした会社の措置に対して、賃金の仮払いを求めました。
決定文において、性同一性障害を抱える者に対しては、その臨床的特徴として、外見を可能な限り性自認上の性別である女性に近づけ、女性としての社会生活を送ることが自然かつ当然の欲求であるから、当該乗務員に女性乗務員と同等に化粧を施すことを認める必要性がある、との指摘がなされています。
そして、化粧を施したうえでの乗務を禁止し、かかる違反を理由として就労を拒否したことに必要性も合理性もないとして、乗務拒否の正当性を否定し、賃金の仮払いを認めました。
3 経済産業省事件
(東京地裁令和元年12 月12 日判決)
戸籍上の性別が男性で、自らを女性と認識するトランスジェンダーの職員が、女性トイレの使用を制限されたため損害賠償を求めました。判決文において、性別は社会生活や人間関係における個人の属性の一つとして取り扱われており、個人の人格的な生存と密接不可分のものといえ、個人がその真に自認する性別に即した社会生活を送れることは重要な法的利益である、との指摘がなされています。その上で、使用制限を違法として国に損害賠償を命じました。
4 終わりに
経営者が、一定のルールの下に労働環境を形作ることができるとしても、性的少数者に対する理解を欠いた不寛容な対応には、正当性が認められることはありません。会社の規模に関わらず、性的少数者も働きやすい環境を整備することが求められる時代になりました。
会社経営において、足元をすくわれることがないよう、性的少数者について理解を深めていかなくてはなりません。
岩崎 孝太郎(千代田支部)
首都東京法律事務所
弁護士
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