債権回収を見据えた契約書作成の着眼点(2021年10月)
新規の取引先と取引を始めることになりました。債権回収を確実に行うために、どのような契約書を作成すれば良いでしょうか。
債権回収は、企業にとってなかなか悩ましい問題ではないかと思います。取引開始時にある程度調査したはずであっても、突然取引先の経営状態が悪くなることもあるからです。特に、新規の取引先の場合には情報が限られていることもあって、なおさら注意が必要です。
債権回収に対する不安を少しでも軽減するため、契約書においてあらかじめ対策を備えておくことが重要です。
例えば、以下のような条項が考えられます。
(1)保証や担保に関する条項
支払能力がある保証人をつけたり、担保をとることができれば、債権回収においてかなり有利になります。
(2)期限の利益喪失条項
債務者が債務の支払を怠ったとき等一定の事由が発生した場合には、期限の利益を失い、直ちに債務残額を一括で支払わなければならない旨の条項です。
この条項がある場合、債務者が支払を怠った場合等に、債務全額の債権回収に直ちに着手することができます。
(3)無催告解除条項
債務者が条項に定める一定の義務に違反した場合等に、債権者が何らの催告を要することなく、直ちに本契約を解除することができる旨の条項です。
(4)約定利率に関する条項
法定利率よりも高い約定利率(例えば年10%)を定めておく条項です。この条項がない場合でも、法定利率(現在は年3%)に基づく遅延損害金を請求することができますが、約定利率を定めておけば、心理的な圧力により任意の弁済を促す効果が見込まれます。
(5)相殺予約に関する条項
相殺とは、当事者双方が、互いに金銭債権を持っている場合に、対当額で債務を消滅させることです。債権者から見れば、実質的には債権を回収することと同視できるため、相殺は有効な債権回収方法の一つです。
(6)合意管轄条項
債権者の住所地を管轄する裁判所を第一審の専属的合意裁判所とする旨の条項です。この条項がある場合、裁判による債権回収を図る際に費用や手間が抑えられます。
契約書を作成せず、取引を始めてしまったのですが、そのような場合、回収は難しいでしょうか。
契約書がなくても、諦める必要はありません。注文書、請求書等の書類があれば、債権の存在を裏付ける証拠になり得ます。また、取引先とやりとりしたメール、FAX 等からも契約の成立を裏付けることもあり得ます。
とはいえ、契約書があるにこしたことはありませんので、もし契約書を作成せずに取引を始めてしまった場合でも、できる限り早めに契約書を交わすよう対処すると良いでしょう。
長谷川 研吾(千代田支部)
神田総合法律事務所
弁護士
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