賃金の減額をする場合、どうしたらいいですか?(2013年8月)
弊社は元同僚3人で立ち上げた会社です。業務拡大のため、同業他社で勤務経験のあるAを、正社員として年俸900万円で 中途採用しました。
しかし、実際、A は全く仕事ができず、給料の割に合いません。そこで減給を申し出たところ、Aは「不利益変更だ」、「今さら雇用契約を変えることは出来ない」の一点張りです。当社も初めての採用で、雇用契約書も最低限の内容ですし、元々3人の会社ですので就業規則もありません。この状態で、Aを雇い続けなければならないのでしょうか?
(結論) 賃金減額条項・査定条項を含む就業規 則を作成・周知し、年度ごとに公正な人事考課を行い、その結果に基づいて賃金の減額を行なうことが考えられます。
(説明) 賃金の減額の方法はいくつかあります。①従業員の同意による減額、②就業規則の変更による賃金減額(ここでいう変更には、事後的に 就業規則を新規作成する場合も含むものとします)、③就業規則の賃金減額条項ないし査定条 項に基づく賃金減額、などです。
雇用契約で定められた賃金などの労働条件を変更したい場合、会社と従業員の合意によって変更することが原則です(合意原則。労働契約 法3条1項、8条、9条本文)。本件ではAの 同意を得るのが難しいため、①の方法はとれません。
ただし、従業員の同意がなくても、就業規則を変更(事後的な新規作成も含む)し、「会社が従業員の賃金を増減額することがある」「賃金は会社の査定に基づき毎年度決定する」など といった規定を盛りこむことによって、会社が一方的に賃金を変更できるようになる場合があります。
この就業規則の変更では、変更後の就業規則 の内容が“合理的”である必要があります。合理的かどうかは、就業規則を変更する必要性の程度、賃金減額幅の大小、従業員に対する誠実な説明の有無、代償措置の有無などで判断します(労働契約法10条)。 実際大変なのは、会社が公正な人事考課を毎 年度行なうことです。他人から見て、人事考課 を公平・適正に行なったことや人事考課と賃金額の関連がわかるように資料を残し、人事考課の結果を従業員にフィードバックするなどの作業が必要です。
本件の会社は、就業規則を作成していないので、Aを含む従業員に丁寧に説明した上で上記 の規定を盛り込んだ就業規則を作成し、年度ごとに人事考課・査定をして、賃金を決定(減額・ 増額)していくことになります。ただし、人事考課をしても、年俸を半額にするのは無効です。 また、就業規則を作成してしばらくは、賃金の減額をしない又は減額幅を小さくするなどの措置を取ることも検討すべきでしょう。
賃金減額を法的に有効に行なうには慎重な検討を要するため、一度、専門家に相談されることをお勧めします。
田辺 敏晃(千代田支部)
川合晋太郎法律事務所 弁護士
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