顧客価値提案と顧客ミッション経営(2006年10月)
事業ドメインを明確にするということはどういうことですか?
事業ドメインとは、あなたが商う事業領域のことをいいます。ところがこれを単純に解釈して、ではうちは「花屋」だから、事業領域は「花屋」というのではいけません。人は花が欲しいから「花屋」に来店するのでしょうか? 病気のお見舞いとか、母の日だからとか、あるいは自分の部屋に置いて癒してもらいたい…などの理由からお客様は来店します。お見舞いという「優しさ」、母への「感謝」、「癒す」などの「コト」を売るのが花屋さんの仕事です。ですから「花屋さん」はライフシーンのサポーターであるわけです。このように「花屋」と定義することをドメインの物理的定義といい、「ライフシーン・サポーター」と定義することをドメインの機能的定義といいます。事業ドメインを明確にするとは、この機能的定義をすることをいいます。
「製品販売」と「顧客価値の提供」の違いについて説明してください。
お客様がお子さんのお見舞いに行くのだったら、「花屋さん」は鉢植えの花にお人形さんを添えたらもっと良いなと考えて、向かいのおもちゃ屋さんに走っておもちゃを仕入れて、フラワーアレンジに人形を添えたとします。お客様は多分「よく気が利くわ!本当に素晴らしい」と感じるに違いありません。つまり、この「花屋さん」はお客様のお子さんへの「愛情」を深く考え、そこから「顧客価値の提供」を行ったのです。つまり花という製品の販売ではなく、顧客価値を提供したのです。顧客の動機や課題にあった解決策を見出し、さらにお客様が思いもしなかった解決策としての顧客価値を提案したのです。こうした販売を「顧客価値の提供」「解決策の提案」といいます。ただモノを売るだけでは、お客様から選ばれないのです。
顧客ミッション経営とはどのようなものですか
この花屋さんのように、顧客の立場に立って顧客価値を重視する経営理念、そしてその経営理念にしたがって行動することができる従業員と仕組みの経営のことを顧客ミッション経営と呼んでいます。お客様と相対して、価値提案できる社員の存在が決定的な役割を果たします。
そのためにも、サービス・コンセプトを明確にして、サービス提供の仕組みを全社に浸透・推進しなければなりません。だからこそ経営指針の成文化とその浸透・推進が必要なのです。
松倉卓(杉並支部)
マーケティング・コミュニケーション研究所 所長
専修大学大学院商学研究科
客員教授 経営士(日本経営士会登録)
http://www.net-mci.com